世界へ、未来へ。
ロボット開発への
扉を開く。
大日製作所では、世界を舞台に活躍するロボットメーカーとともに約6年前から産業用ロボットのパーツの開発に取り組み、現在では量産体制を整えるまでに至っている。
しかし、ここにたどり着くまでの道のりは当然、平坦ではなかった。そこで今回、ロボット開発に挑戦することになった経緯、試作段階での格闘の日々などを、
このプロジェクトのスタートから関わる橋本社長を中心に、若手技術者も交え、語り合ってもらうことに。
すると、会話は大日製作所で挑戦することの面白さ、これから描く自分たちの仕事の未来へと広がっていった。
話を聞いた2名
代表取締役社長
橋本
製造部
生産技術課
M・T
プロジェクトが始まるまで
2015年の夏、社長を務める橋本のもとに見覚えのない送り主からの1通のメールが届く。その送り主は、世界を舞台に活躍する大手ロボットメーカーの技術開発プロジェクトマネージャー。特殊用途のロボットの最重要部品の製作を検討してほしいとの内容だった。これまでに挑戦したことのない分野。しかも、難易度の想像もつかない。それでも橋本は、「だからこそ、私たちのやるべき仕事だ」と捉え、「やらせていただきます」と返答した。
各社が力を合わせ、
難関と
2年間戦い続けた。01
—プロジェクトがスタートした当時のことをもう少し詳しく教えてください。
メールが届いたときは、一瞬、詐欺かと疑いました(笑)。そのくらい突然だったのです。
ただ、その後、詳しくお話を伺うと、他のどの企業に依頼しても断られていたそうで、日本中の機械加工メーカーを探して当社の存在を知ったとのことでした。
そうだったんですね。ちなみに、社長はやっぱり、依頼を受けたときから難しそうだと思ったのですか?
そうだね。たしかに、複雑で、開発途中のもので「これは難しいだろうな」と。依頼があったのは、ロボットのハンドが付くアームのジョイント部分。
使用する材質の特性上、ひずみが出やすいので加工がしにくい。かつ、モーターを支える部分の精度がかなり高い。
それでいて、薄型の加工が求められていました。
加工するにあたって、大変な要素が三拍子揃っている感じだったのですね。試作の戦いは2年くらい続いたとも聞きました。
そもそも、開発しようとしていたロボットは、業界でも初となる特殊な仕様のものだったんです。
製薬メーカーが殺菌環境下で使用するため、通常のロボットとは異なる耐食性の高い素材を使用していて、この素材の取り扱いに苦戦しました。
僕は現在、この製品の量産を管理する業務をしているので、この開発ストーリーはちょっと気になります。
当時も、少しサポートに入ることもあったのですが、トライアンドエラーをくり返して、みんなが悪戦苦闘しているのはよく知っていました。
—試作の2年間はどんな戦いがあったのですか?
試作の段階ですから、正直、本当にできるのかわからない中での挑戦です。頭を抱えながら開発に挑みましたよ。
依頼してくださったメーカーの開発担当の方も、図面の調整を依頼したり、モーターメーカー側にもやり方を変えてもらったり。
私たちの製造方法に合わせたやり方をお願いすることもありました。
3社で支え合って、うまくいく落とし所を、少しずつ見つけていくという感じですね。
そうそう。今ならオンライン会議で済むけれど、当時はお客様のいる愛知県までしょっちゅう通ってね。
最終的に、コストや品質保証の観点でも合格点を出せる製品をつくることができたときは、大きな達成感があったなあ。
—そこまで頑張れるモチベーションはどこから生まれたのですか?
僕は、そもそもその大手のロボットメーカーと一緒に仕事ができることがうれしかったんです。
日本企業の中でもトップレベルの会社で、足を運ぶたびに学びも大きかったですね。
だから、そのときは苦しくても、今踏ん張れば大きなものが得られると確信していました。
そうだったのですね。サポートで入っているとき図面を見たのですが、あまり詳しくない自分にもその難易度の高さはすぐにわかりました。
でも、社長の言うようにこれができれば、なんでもできるようになるのかな、とも思いましたよ。
僕は当時、まだ入社していなかったのですが、その話を聞くと最初から携わってみたかったなぁと思います。
自分がプロジェクトに参加することになったのは量産が始まってから。それまでも、ずっと「やってみたいな〜」って思っていました(笑)。
若手二人が
立ち向かった、
「量産の苦しみ」。02
—そして、次は量産の段階へ進むのですね。そのときもまた別の苦しみがあったのですよね。
合格した後の量産の工程は、大変だったよね。というか、M・Tくんが自己流でやりたいようにやった結果、大変だったのだっけ?
そうです。量産の際、最初に導入していたマシニングセンターから、より新しいバージョンのものを導入することになって。そのタイミングで僕が参加したんですよ。
僕は、前と同じやり方で量産をしていては、効率的に生産できないと思った。だから、まずはマシニングセンターで大まかな形に加工し、より精度の求められるところを旋盤で加工する、という作業順序で量産することに決めたんです。でもその方法でやってみたら、初回はボロボロ。使い物にならないものができあがってしまって…。
そのままの方法でやればいいものを、やっぱりどこかでチャレンジしたくなってしまったんだね(笑)。
私はそのとき、旋盤の加工に関してはメインで担当していました。M・Tさんのやり方は、最初はうまくいかなかったけど、
徐々に方法を変えていく中で、旋盤の作業工程を減らしてくれて。とても楽になったんです。
何度も試行錯誤する際、旋盤の作業工程が多いのが課題でした。
だから、先にマシニングセンターである程度細かいところまで加工してしまうことに決めたんです。
やはり、いくら機械による加工とはいえ、精度が毎回異なるんですよ。
だから、結局は人の手で一個ずつ採寸しながら作業を進めなければいけない。加工時間よりも、確認する時間の方が時間がかかったくらいでした。
当時、量産の工程が簡単ではないのはわかっていました。
それでも、若手に任せたいという気持ちがありました。ここでやりきってほしいなって。
そうだったんですね。
M・Tくんは、5軸加工の技術力は抜群です。
T・Kくんも、旋盤加工ではプロです。この二人になら、任せられると期待していましたよ。
僕は、まだまだ技術力は足りないと思っています。
でも、そんなふうに任せてもらえるのはうれしいですし、期待に応えたくて、頑張ろうと思えましたね。
僕も話がきたときは、うれしかったです。
だからこそ、やってみてうまくできなかったときは本当に悔しかった。やっぱり難しいんだと、学びましたね。
うまくいかないときは、連絡を頻繁に取り合ってどうしたらいいのかずっと相談していましたね。
自分は、時間をかけず、人の手間をかけず、かつ精度はキープする、ということを叶えるために試行錯誤を重ねていました。
質を安定させた上で量産が叶えば、夜に機械のボタンを押せば朝には完成しているというのが叶うのです。
だから、挑戦しているときはワクワクする気持ちが大きかったですね。
大変だけど、その先に大きなやりがいがある、と?
そうです。僕がやろうとしたのは、いわゆる機械の自動化。そのプログラムを組み込むのは難しかったのですが、考え込むのすら面白かったですね。
頭の中にイメージしていることを、現実にすることは楽しいんです。これからも挑戦は続けたいですね。
悩みに悩んで、実際の製品が立ち上がったときにはホッとしますし、この仕事の面白さも実感しますね。
—自分たちがつくった部品が組み込まれたロボットを見たときは、どんな気持ちでしたか?
すごく感動しましたよ。最初のお披露目は商品の展示会だったのですが、ピカピカに磨かれたロボットはすごい存在感で。人だかりができるほどでした。
僕らも、動画でその様子を見ました。実際に動いているのを見て、感慨深かったですね。
その上、このロボットは日本グッドデザイン賞の大賞を受賞しているんです。お客様も本当に喜んでくれました。
「大日さんが受けてくれたおかげで受賞できました」という言葉は今でも忘れられません。
私たちが関わったロボットは、有名なところでは将棋の「電王戦」にも使われるようなレベルのものでした。
用途はそれがメインではありませんが、日本中・世界中が注目する製品に携われると思うと、モチベーションが上がります。
一流のパートナーと
仕事し、
ものづくりへの意識も進化していく。03
—このプロジェクトを経て、これから、大日製作所の可能性はどんなふうに広がっていくとお考えですか?
ロボットはまだ一社だけの受注だけど、これからも活躍の場を広げたいですね。
それから、大日製作所の持っている「鏡面バフ」という表面加工技術などと組み合わせて、いろんな業界へ売り込んでいけたらいいですね。
また、今回依頼してくださった大ロボットメーカーのものづくりに触れたことも、これからの大日製作所に大きな影響をもたらすと思っています。
そうなんですか。
仕事を進めるときには「生産技術」「製造」「品質管理」など、あらゆる部署が集合してプロジェクトが動き出すんです。
そういった、チームでものづくりに挑む姿勢はどんどん参考にしていきたいなと。現場にいる二人はどう?
僕は、現状、新しい図面から初回の試作の立ち上げ段階の業務に取り組む機会がとても多いのです。
この業務は大変だけど、個人的には大きなチャンスだと思っていて、ぜひ他のメンバーにもこの立ち上げの挑戦をさせたいなと思っています。
もちろん、そのために自分も教育をしっかりやらなければと思っているのですが。
僕は「今年できなかったことが、来年できるようになっている」ということを大切にしながら働ける会社だと思っています。
つまり、挑戦の機会がとても多いということですし、挑戦して終わりでなくて、身になる仕事をさせてもらえるのが大日製作所だと。
僕自身、まだ知識も浅いので、できることを増やすためにも勉強を続けたいと思っています。
うちに依頼がくる案件は、本当に難しいよね。二人もよく頑張ってくれていると思います。
そんな二人には、中長期的な目標を持って前に進んでいってほしいなと思っています。
どういうことでしょうか?
今は、目の前で進んでいるものづくりに関して“現象”として認識していると思うんです。こうしたら、こう動く。こう調整したら、こうなる、と。
そこからさらにレベルを上げて、根本的な“原理”を知っていくことも、今の二人には必要なのかなと。
それを学ぶことで、さらに大日製作所が取り組むことのできるフィールドも増やしていけると思いますし、本人たちも長い目で考えて、ここでのものづくりが本当に楽しくなるのだと考えています。
そういうことは、考えたことなかったなぁ。根本からの進化は、今必要かもしれません。
たとえば、大学院に行ってもいいと思う。ものづくり大国のドイツへ留学したり、もっと言うならNASAに飛び込んだりしてみたらいい。
そのための支援だったら、僕はいくらでもしますよ。
なるほど。ちょっと、面白そうかも。
その代わり、受注するまで帰ってくるなよ!ってね。冗談だけど(笑)。
(笑)