先輩から後輩へ。
船舶用ピストンの
限りない
挑戦は続く。
大日製作所は、今でこそ、日本有数の船舶用ピストンの生産量を誇るが、ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。
船舶用ピストンの開発に初めて挑んだのは13年前。エンジンメーカーからの難易度の高い要望に必死にくらいつき、なんとか受注。
その後、ひとつひとつの仕事を通して信頼を積み重ねていきながら、任される製品の種類と生産量を年々増やしていった。
今回は、この船舶用ピストンの初受注に携わった先輩技術者と営業、さらに彼らからバトンを引き継ぎ、現在の生産を支える若き後輩技術者に集まってもらい、
過去から現在へと話を進めてもらった。
話を聞いた3名
製造部
機械加工課
T・T
製造部
生産技術課
T・U
営業部
H・K
プロジェクトが始まるまで
13年前、船舶用の大型ディーゼルエンジンを手がけるメーカーを訪ねた社長の橋本は「うちでピストン部分をつくらせてほしい」と直談判した。しかし、担当者に「あんな重要な部品、そんな簡単には任せられない」と一蹴される。そこから粘り強くアピールを続けること約1年。ようやく、新型エンジンに搭載するピストンの試作品の引き合いを得ることができた。ついにチャンスをつかんだ橋本は喜んで図面を持ち帰り、T・Kに声をかける。しかし、そこからが本当の戦いだった。
新規参入の
難しい業界の
入口をこじあける。01
—プロジェクトがスタートした当時のことを教えてください。
プロジェクトの最初から携わったのは、この中では私だけですね。じつは、この船舶用大型エンジンを手がけるお客様の前に、
もう少し規模の小さな会社から中型船舶用のピストンの開発を受注し、ある程度の技術力と実績を備えてから、このエンジンメーカーに営業をかけたのです。
それでも簡単には受注できなかったんですよね?
船舶用ピストンは、万一不具合を起こせば、洋上で船が漂流すると言われるほど船舶にとって重要な製品。
エンジンメーカーによっては社外へ発注せず、自社で生産するという方針のところもたくさんあるほどだからね。
だから、どの会社も発注先を決めるのは慎重になるんですよね。
また、古くからある業界ということもあり、すでに開発を終えた製品の量産に私たちが介入するのも難しい。
だから「勝負するなら、開発から」という気持ちで営業をしていたんだと思います。
そうなんです。開発は本当に大変でした。船舶用エンジンのピストンの役割は、簡単に言うとエンジン内の空気の流れを生むこと。
その排気する部分に触れる部品の先端の形状を考えるのが難しいんです。
ひとつうまくいっても、少しずつ微調整しながら燃費の量や水力などを検証していかなければなりません。
—なるほど。開発段階は、考えただけでも、気が遠くなりそうな作業ですね。
納期のハードさ、
納品物の多さに
舌を巻いた。
—ちなみに、当時の開発で一番大変だったのはどんな点ですか?
まず、大量の試作品を短期間で開発しなければならなかったことです。最初は、そのスケジュールのハードさに圧倒されましたね。
今の現場では、図面が手元に来てから、ひとつの試作品を仕上げるのに1ヶ月ほどかけていますが、このときはどれくらいのスケジュールだったんですか?
当時は、2週間で6種類の試作品の開発が求められていましたね。「とにかく、なんとかしなければ」と必死でした。
そんなに時間がなかったんですか。まさに量産を勝ち取るための、産みの苦しみですね。その試作品の出来で、量産の発注が決まるわけですものね。
ある意味、力試しの時期だったのかもしれませんね。
そうなんですね。今の僕たちが当たり前のように船舶用ピストンを量産できるのは、T・Kさんたちが道を切り拓いてくれたおかげだったんですね。
社長からも「先輩がここまで頑張ったんだから、君も頼むぞ!」と言われたんです。
そうなんですね。でも当時は本当に無我夢中でしたね。依頼された試作品の機械加工の難易度は高いし、そもそも、加工するための治具からつくらなければならないし。
他部署のメンバーたちにも協力してもらい、地道に進めていきました。
—担当していない周囲の方々の協力もあったのですね。
はい。みんなの協力があったからこそ、短納期の中でお客様の要望に応えられたのだと思います。
ときにはお客様の担当者も私たちの現場に来て、意見を出し合って。そうした試行錯誤をくり返しながら、気づくと数ヶ月が経っていました。
数ヶ月間ずっと2週間で6種類のペースで試作品を納品し続けたんですか?すごいなぁ。自分がその立場だったら、同じことができただろうかと思います。
本当ですよね。当時は社長からも「いつできあがるの?」と進捗を何度も確認され、現場も常に緊張感がありましたね。
ときには、夜遅くまで会社に残って試作品をつくり続けることもありましたよ。大変だったなあ(笑)。
自分たちの
手がけた製品が、
ベストセラーを
勝ち取るという喜び。02
—そして、T・Kさんたちの頑張りの甲斐があり、無事に量産の発注が決まったわけですね?
社長は、お客様から「ここまでよく、私たちの厳しいものづくりに付いて来てくれましたね」という労いの言葉をもらったと話していましたね。
やはり、信頼を勝ち取ったことが大きいですよね。その後、そのお客様からの依頼が社内でも増えた感覚がありました。
自分の手がけた製品が大日製作所の主力製品になったのはとてもうれしかったですね。
そのエンジンメーカーにとっても、私たちがピストンを担当した船舶用エンジンはベストセラー製品になったと喜びの声をいただきましたからね。
H・Kさんは営業として、今でもそのエンジンメーカーと取引を続けていますよね。
はい。営業としての役割は、納期や費用面の管理、品質の維持、そして新規契約先の開拓などがあるのですが、
このプロジェクトに参加したときには、すでに3種類ほどの製品の量産が決まっている状況でした。でも、そこからも依頼される製品は増える一方ですからね。
そんなに大日製作所に依頼してもらって、ありがたいことですよね(笑)。
そのエンジンメーカーにとっても、自分たちの成長スピードに付いてくることができる製作所を探していたのだと思います。
—それで、第3工場にも設備を増設して量産を行っているのですね。
はい、現在は僕が第3工場での加工工程の管理を担当しています。初めて船舶用ピストンの図面を見たときは何がなんだかわかりませんでした。
たしかに、新卒で入社した新人にはかなりレベルの高い仕事だと思うな。
役割としては、加工する機械にプログラムを組んでいくことが中心。
最初は先輩の作業を見せてもらいながら進めるのですが、実際に手を動かしてみると本当に難しかったです。
治具も市販のものでは太刀打ちできない複雑さだしね。
そうなんです。それに、穴の内側を加工するという手順もあり、外側からでは確認ができない部分もある。
本当に加工できているのか?と、不安な気持ちにもなりながら進めていきました。
こちらも、引き継ぎの説明をするのすら難しくて手こずりました。でも、会社として量産を続けていくためには、後継者を育てるのも重要な仕事です。
「T・Uに任せてみよう」という思いで一緒に苦労しながら引き継ぎをしました。
教えてもらう中で「T・Kさんこんなことをしていたのか!!」ってびっくりでした(笑)。
ある意味、苦労をわかってくれてうれしいよ(笑)。第3工場が整備されたおかげで、お客様の希望の生産スピードにも応えられているしね。
最近は、新しい試作品の依頼にも応えている姿を見て、感心しているよ。
若手にしかない、
体力と粘力で
新しい挑戦を続けて
ほしい。03
—改めて、大日製作所の強みはどんなところにあると思いますか?
お客様から“パートナー”のように思ってもらっているのは大きな強みではないでしょうか。他社には依頼できないことを、私たちに相談できる、というか。
そうですね。「難しい試作といえば、大日さんに」という雰囲気は感じています。
そんなふうに思ってもらえるのって、本当に誇らしい気持ちになります。そりゃ、あまりに大変だと困ってしまうけれど(笑)。
とくに、大日製作所は中堅よりも若手が多い。そして、その若手たちが最初から最先端の機械を使い、技術を磨いていますし。
難しいことにも粘れる体力があるから、思い切った挑戦もできる。そういった社風が育てた強みも魅力だと思います。
たしかに、僕がこのプロジェクトを任されたときも若手だったなぁ。そして、若手のT・Uに引き継いでいるし。
—では、若手にもこれからさまざまなチャンスがたくさんありそうですね。
きっとこれから、どの分野でもさらなる技術革新があると思います。だから、これから入社してくる若者たちにとっても挑戦の海はとても広いのではないでしょうか。
船舶用ピストンに限らず、航空機やロボットの製品もありますし。
私は一度、実際に自分の手がけた製品が使われている船舶を見に行く機会がありました。その船舶は想像をはるかに超える大きさ。
「この大きな船が世界の海を旅するためのエンジンの一部をつくっているのか」と思ったら、心を強く打たれました。
これから入社してくる後輩にも、そうした感動を味わってもらいたいですね。
大日製作所に
ルーティンはない。
自ら道を拓いて進む
若者を待っている。04
—皆さんの次なる挑戦を聞かせてください。
先ほどもお話したように、技術はどんどん進化していきます。
営業としても、変化へのアンテナをしっかり張って、大日製作所の新しい挑戦となる仕事をつかみとりに行くことが目標です。
それから、社長がよく口にしていることですが自社製品の開発にも力を入れていきたいですね。
僕は、入社してから9年目になりますが、まだ一から何かに取り組むといった挑戦はしていません。
当時のT・Kさんのように、先駆者として大日製作所が輝けるステージを新たに切り拓けるようになりたいと思っています。
今日お話を聞いて、苦労するのも、楽しみだなぁと。
まずは、今の私たちの持っている設備や技術を最大限に活かしたものづくりがしたいです。
もっと大きな製品をつくるには、さらに大きな設備も必要になってきます。自分たちにできる限界まで、こだわりを持って挑戦を続けたいです。
そして、同じように挑戦できる若手を育てることも、今後の目標です。